有害な痛みを緩和する治療 患者さま向け

痛みのおはなし

中嶋保則     岡部廣直

第1章 痛みとは

『痛み』とはどんなものか説明できますか?おなかが痛い。頭が痛い。膝が痛い。坐骨神経痛が痛む。けがをして痛い。このように、多くの人がいろいろな痛みを経験し、その痛みがどのようなものであるかを、想像することはできるでしょうが、いざ『痛みって何?』と聞かれると答えに困るのではないでしょうか。
実は、『痛み』の定義が国際疼痛学会で定められています。『痛みとは、実際に組織損傷がおこったか、あるいは組織損傷の可能性があるとき、またはこのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚・情動体験である』と非常にわかりにくい言葉で表現されています。わかりやすく述べると、『痛みは大変不快な感覚であり、同時に不快な感情を伴う体験である。それは、外部から生体にとって害となる刺激を受けたときや、その時点では害とならなくても後に害となる可能性がある時に起こるもの』ということです。もっと簡単に言うと、包丁で指を切ったときに起こる「いたっ!」と感じる感覚と、脳で感じるいやーな感情(情動体験)をあわせて『痛み』と言うのです。ですから、痛み治療には単に「痛い!」という「感覚的側面」にとどまらず、「情動的側面」をも考慮する必要があります。
痛みは情動体験でもあるため、他人と共有できないという特徴があります。同じ痛みでも人によって痛みの表現が異なるだけでなく感じ方も異なるので、他人には痛みを理解してもらえないということが起こるのです。また、同一人物でも、その時の感情の状態(楽しい時といやな時など)によって痛みの程度に違いが出てきます。このように痛みは、情動に左右され客観的に評価することが難しく、「痛みは主観的なもの」と言えます。

第2章 痛みの種類

痛みはいろいろな分類があります。痛みを持続する期間で分類すると、数日から数週間で治る急性痛と数ヶ月から数年も続くような慢性痛があります。けがの痛みや風邪を引いたときの頭痛などは急性痛で、坐骨神経痛や膝関節痛などは慢性痛に分類されます。ここでは、痛みの原因による分類を説明します。

(1)侵害受容性疼痛 (図1 A)

人の体には味を感じたり、暖かさを感じたり、物に触れているのを感じたりする様々なセンサー(受容器)が備わっています。その中でも、体にとって害となる刺激(侵害刺激)を感じるセンサーを侵害受容器と言います。侵害刺激には、例えば針や刃物などの鋭利な物からの機械的刺激、火などの熱刺激、氷のように冷たいものによる冷刺激、塩酸など薬品による化学的刺激などがあります。このような侵害刺激が加わると侵害受容器は脳に痛みを伝えるのです。侵害刺激は痛みを誘発する発痛物質を産生させることがあり、刺激がなくなった後も持続するうずくような痛みが続くことがあります。火傷のあとには原因となる熱刺激がなくなってもズキズキと痛みが続くことからもわかるでしょう。日常生活で経験する多くの痛みは、この侵害受容性疼痛に分類され、非ステロイド性抗炎症薬(いわゆる痛み止め)が効くことが多いのが特徴です。

(2) 神経障害性疼痛 (図1 B)

痛み刺激はセンサー(侵害受容器)から神経に伝わり、更に脳に伝達され痛みを感じます。その神経の途中に損傷や機能異常を認めることによって起こる痛みを神経障害性疼痛といいます。神経の通り道が狭くなり神経を圧迫することで起きる頚椎症性神経根症や坐骨神経痛、交通事故や手術後におきる外傷性末梢神経障害や脊髄損傷後疼痛、水痘・帯状疱疹ウイルスによって神経障害がおきる帯状疱疹後神経痛、糖尿病の不十分な治療で神経障害がおきる糖尿病性神経障害など様々なものがあります。痛みの特徴として、「焼けるような」、「うずくような」、「電気が走ったような」と表現されることがあります。また、軽い痛み刺激なのに激しく感じる「痛覚過敏」や、触っただけ・風が当たっただけでも痛みが誘発される「アロディニア」も特徴です。一般的に、非ステロイド性抗炎症薬が効きにくいため治療が難しく、その他の薬物治療や後で述べる神経ブロック療法を組み合わせて行われることがあります。

(3) 心因性疼痛 (図1 C)

先に述べた侵害受容器に痛み刺激もなく、脳とを結びつける神経にも障害を認めないのに痛みを感じる。この状態を心因性疼痛と言います。これは心の弱い人に起こるとか、精神疾患だから起こる痛みではありません。その人の置かれている社会的地位・責任、人間関係、その人の几帳面さなどの性格などが複雑にからみ合い、本人も気づかないうちに心理的ストレス・疲れとなって蓄積され「痛み」という形で放出されているだけなのです。また、本来は侵害受容性疼痛神経障害性疼痛であっても痛みが慢性化することで気分も抑うつ状態となり心因性疼痛を合併することがあります。ですから、痛み治療には鎮痛薬や神経ブロック治療などの直接的治療のみならず、心理的側面を考慮した薬物療法、カウンセリング療法、認知・行動療法などの心身医学的アプローチの併用が重要となってきます。ですから、当院のように心療内科と連携して疼痛治療を行う病院も増えてきています。

痛みの種類とその原因部位

図1:痛みの種類とその原因部位

第3章 痛みの治療

この章では様々な治療法の中からまず、薬物療法について簡単に紹介し、次にペインクリニックの特徴である神経ブロックについて紹介します。

(1)薬物療法

①非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・アセトアミノフェン

アスピリン・ロキソプロフェン(ロキソニン)・イブプロフェン・ジクロフェナク(ボルタレン)などの非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンは、いわゆる痛み止めとして市販もされており、解熱・鎮痛作用を有します。頭痛・歯痛・筋肉痛・打撲・腰痛・膝痛・けがの痛みなど、多くの侵害受容性疼痛(第2章参照)に有効です。また、癌の痛み(癌性疼痛)に対しては、次に述べるオピオイドと併用して用いられます。副作用として胃粘膜障害が有名です。胃潰瘍を起こすこともあるため制酸剤(胃薬)がよく併用されます。最近では、COX-2阻害薬(モービックなど)という胃粘膜障害を起こしにくいという痛み止めも開発されています。

②オピオイド

モルヒネに代表される麻薬系鎮痛薬のことで、コデイン・モルヒネ・フェンタニル・オキシコドンなどがあります。麻薬と聞くと恐怖感を覚える人が多いようです。それは、このオピオイドが長年、癌性疼痛治療薬として使われてきたからではないでしょうか。癌の治療と聞くと、「死が近い」とか、「作用が強力すぎて副作用も強い」などの間違ったイメージを持つからかもしれません。しかし、それは誤解です。近年、癌性疼痛は安全に、しかも良好にコントロールできる技術が進歩しています。諸外国では早くからこのオピオイドを癌以外の慢性疼痛に用いられ良好な結果が得られています。遅ればせながら、やっと日本でも2010年からフェンタニルパッチ製剤が、2011年からトラマドール・アセトアミノフェン配合製剤が慢性疼痛に使用することがでるようになりました。そのおかげで、非ステロイド性抗炎症薬では十分に痛みが取れなかった神経障害性疼痛や慢性の膝痛、腰痛などの患者さんにも積極的にこの薬を使用し、痛みが軽減したと大変喜んでいただいております。

③鎮痛補助薬

本来は鎮痛作用を有しないが、特殊な状況で鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬、オピオイド)と併用すると鎮痛効果が発揮・増強されるものを鎮痛補助薬といいます。特殊な状況とは、鎮痛薬が効きにくい神経障害性疼痛(癌性疼痛を含む)や難治性の慢性疼痛などです。鎮痛補助薬には抗うつ薬、抗てんかん薬、抗不整脈薬、ステロイドなどがあります。近年、神経障害性疼痛の治療薬としてよく使われているプレガバリン(リリカ)も抗てんかん薬の一種です。

(2)神経ブロック療法

神経ブロックとは

痛み刺激(侵害刺激)はセンサー(侵害受容器)で感知され、神経を伝わって脳へ信号を伝え、痛みを感じることを第2章で説明しました。その痛みを伝える神経付近に薬剤を注入することによって痛み信号を遮断(ブロック)し、脳が痛みを感じなくする鎮痛方法を神経ブロック療法と言います。神経ブロックで主に使用される薬剤は局所麻酔薬です。局所麻酔薬の効果は一時的で、30分からせいぜい数時間程度です。しかし、神経ブロック後の疼痛緩和は局所麻酔薬の作用時間を超え、数日から数週間・数ヶ月に及ぶことがあります。その理由のひとつに『痛みの悪循環』の遮断効果があります。(コラム参照)
神経ブロックの対象となる神経には脳神経・脊髄神経・末梢神経・交感神経などがあり、痛みの部位・種類によって選択します。ここでは、代表的な神経ブロックについて説明します。

①星状神経節ブロック(図2)

交感神経は脊椎の頚椎から仙椎まで、椎体の両側をペアで走行しています。(図2の黄色い部分)その交感神経が第1胸椎付近で塊り(節)をなしており、これを星状神経節といいます。星状神経節ブロックは第6または第7頚椎付近から局所麻酔薬を注入し、その局所麻酔薬が第1胸椎の星状神経節まで広がり交感神経の活動を抑制することで効果を発揮します。
交感神経である星状神経節の神経活動を抑制すると次のような反応が起こります。第一は頭部・頚部・上肢・胸部の血流増加です。患側(ブロック施行した側)の顔が腫れぼったい・暖かいと感じたり、鼻粘膜の血流増加で鼻が詰まった感じがします。第二は発汗減少により顔の皮膚がさらさらになります。第三は患側のまぶたがあけにくくなる(眼瞼下垂)、瞳孔が収縮(縮瞳)することです。これらは交感神経抑制の特徴でホルネル徴候と呼ばれます。
星状神経節ブロックは頭部・頚部・上肢の有痛性疾患が広く適応となります。主な有痛性疾患としては、頭痛・顔面痛・頚椎症性神経根症・頚椎椎間板ヘルニア・頸肩腕症候群・帯状疱疹・癌性疼痛などがあります。また、無痛性疾患としては顔面神経麻痺・突発性難聴・アレルギー性鼻炎・多汗症などがあります。当院では、認知症の患者に脳血流の増加を期待して施行し、一定の効果があがっています。

星状神経節の解剖

図2:星状神経節の解剖

②硬膜外ブロック

脊髄神経は背骨の管(脊柱管)の中で、脳脊髄液という液体に満たされた硬膜という袋の中でプカプカ浮いているとイメージしてください。その硬膜と脊柱管の靭帯との間に数ミリの空間があり、これを硬膜外腔(こうまくがいくう)といいます。硬膜外ブロックは脊椎のすき間を通して、このわずか数ミリの空間である硬膜外腔に局所麻酔薬を注入するため高度なテクニックを必要とします。しかし、このブロックは手術時の麻酔として一般に行われている方法で、麻酔科医が最も得意とする方法ですので恐がらずに安心して受けてください。患者さんから「この注射は痛いのでしょう?」と聞かれます。これも誤解です。まず穿刺部に局所麻酔をする際にチクッと痛む程度で、採血の針よりも小さいことを説明しています。ですから、実際にブロックをした後に「思ったより全然痛くありませんでした」という患者さんがほとんどです。
硬膜外ブロックの特徴に選択的神経遮断 (differential nerve block)があります。これは、使用する局所麻酔薬の濃度によりブロックされる神経とされない神経を分けることができるというものです。低濃度では交感神経のみがブロックされ血流改善が期待できます。もう少し濃度をあげると、交感神経と知覚神経がブロックされるため、血流が改善し、痛みも感じなくなります。ペインクリニック治療ではこの濃度で十分ですが、手術の際は更に濃度を上げ運動神経をブロックすることにより筋肉の緊張をとり(筋弛緩)、手術を行いやすくします。
硬膜外ブロックの適応となる疾患は首より下の部位に痛みを有する疾患、および血流障害を伴う疾患です。具体的には、腰痛症、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に伴う腰下肢痛、尿管結石、癌性疼痛、帯状疱疹、術後創部痛、交感神経依存性疼痛などの有痛性疾患や、閉塞性動脈硬化症による血流障害など多岐にわたります。

③神経根ブロック(図3)

脊髄神経からでた神経は椎間孔を通って体の各部位に到達します。この神経の根元を神経根と言います。そして神経根周囲に局所麻酔薬を注入する方法を神経根ブロックといいます。神経根が支配する体の部位は決まっていて、単に「右腕」といった広い範囲ではなく「右手の親指」など限局しているので、痛みの部位がわかれば、その領域を支配する神経根をブロックするため、ピンポイントで痛みを取ることができます。
主に頚椎症性神経根症、頚肩腕症候群、外傷性頚部症候群、椎間板ヘルニアなどの整形疾患がよい適応です。

神経根ブロック

図3:神経根ブロック

④トリガーポイント注射

肩こりの肩をよく触るとこりこりと固い部位(硬結)を認め、そこを押すと強い痛みや、首や腕に走る痛み(放散痛)が誘発されます。この痛みを誘発する部位を拳銃の引き金(トリガー)になぞらえてトリガーポイントと言います。鍼灸で言う「つぼ」に一致することが多いようです。このトリガーポイントに局所麻酔薬を注入する方法をトリガーポイント注射と言います。 筋筋膜性疼痛(いわゆる筋肉痛)がよい適応で、首・肩の筋肉痛およびそれが原因で起こる緊張性頭痛、腰痛症などが挙げられます。
肩こり・腰痛・背部痛など一般的に筋肉痛と言われるものは全体が悪くなっているように感じますが、実はトリガーポイントが痛みの根源であり、そこを治療することで疼痛が緩和されます。

(3)その他の治療法

①非侵襲的療法

神経ブロックが体に針をさすなどの危害(侵襲)を加えることで痛みをとるのに対して、侵襲を加えずに痛みをとる方法があります。

a) 低周波電気治療

疼痛部位に電極を置き、低周波の刺激で筋肉をほぐし、疼痛を緩和するもので、圧刺激を加えるものや患部を温めるものなど多くの種類があります。筋筋膜性疼痛に有効です。

b) レーザー照射、近赤外線照射

皮膚の上から光を経皮的に浸透させることで局所血流の改善、異常興奮した神経の抑制、刺激伝達の正常化をもたらし疼痛が軽減すると考えられます。神経ブロックの対象疾患のほか、関節痛・慢性疼痛などにも効果があります。

②リハビリテーション

慢性疼痛では関節が硬くなったり、筋肉が緊張して疼痛が悪化することがあります。リハビリテーションはそれらを改善し、更に血流改善等も期待できるので、機能改善だけでなく疼痛改善の治療法のひとつとしても重要です。

③心理学的療法

痛みは慢性化すると心因性疼痛(第2章参照)でなくても、気分が滅入ってうつ状態となり、痛みが更に悪化することがあります。このような疼痛性障害では単に薬物療法や神経ブロックのみではなくカウンセリング療法、認知・行動療法などの心身医学的アプローチが必要となることがあります。

④放射線療法

三叉神経痛、転移性骨腫瘍による癌性疼痛などにガンマナイフなどの放射線療法が用いられることがあります。

最後に

痛みにはいろいろな種類があり、しかも自分の痛みや苦しみは他人にはわかってもらえないといった特徴があります。特に慢性痛では長い間、医者にも理解してもらえず苦しんでいる人が多くいます。ペインクリニックでは神経ブロック療法を始めとして様々な方法でその痛みを緩和できるように、患者さんと一緒になって日々努力しています。痛みでお困りの方は、一度ペインクリニックのドアをたたいてみませんか?

(この文章は岡部病院情報誌「菜の花」の20号、21号、22号で掲載したものを改変して掲載しました。)

コラム

痛みの悪循環 (図4)

痛みが脳へ伝わると、交感神経は興奮状態となった信号を障害部位に送ります。そのため、障害部位では筋肉が攣縮(収縮)したり、血管が収縮したりして局所の低酸素状態・代謝物(発痛物質)の生成を引き起こし、知覚神経を刺激することで新たな痛みを引き起こします。その痛みが脳に伝わり、更に交感神経を興奮させる…、というふうに痛みの連鎖が始まるのです。これを『痛みの悪循環』と言います。いったん悪循環が完成すると、もともとの痛みの原因がなくなっても痛みが持続することとなります。肩こりなどの慢性痛がこれに当たります。神経ブロックはこの悪循環を断ち切る作用があります。断ち切ることによりホメオスタシス(生体が元のいい状態に戻ろうとする力)が回復し、痛みが緩和すると考えられるのです。だから、局所麻酔薬の作用時間以上に効果が持続することになります。

痛みの悪循環

図4:痛みの悪循環

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